PART 1 熱狂の頂点

FAS帝国の興亡

「秒速で1億円」が止まった日。与沢翼氏のFASとFASアフィリエイトセンター。2014年4月の資金ショート公表と、その後の海外移住。

アパレルから情報商材へ

事実与沢翼氏は1982年生まれ。早稲田大学在学中の2006年にアパレルのネット通販会社を立ち上げ、渋谷109-2に店舗も出しましたが、2011年にこの会社は倒産し、本人も自己破産しています。その前年の2010年に創業したアフィリエイト会社が、のちの「フリーエージェントスタイルホールディングス(FAS)」の前身です。

一度事業を潰した人物が、わずか2年ほどで「秒速で1億円」を名乗るまでになった。その速さ自体が、当時の情報商材ビジネスの回転の速さを物語っています。

FASアフィリエイトセンター

FASの中心にあったのが、自社で運営するアフィリエイトの仕組み、通称「FASアフィリエイトセンター」でした。自社や提携先の商材、無料オファー(メールアドレス登録)を紹介したアフィリエイターに報酬を払い、紹介の連鎖で一気に人を集める。大型プロモーションのたびに、ネット上は同じ商材を勧めるブログとメルマガで埋め尽くされました。

論評当時を知る人の間では、アクセス集中でフォームが開かない、計測が漏れる、報酬の集計が合わないといった話が絶えませんでした。中身のシステムが公開されたことはなく、真相は分かりません。ただ、数億円規模のお金を動かす仕組みとしては、外から見える範囲だけでも不安定だったという印象を持つ人は多かったはずです。

2014年4月26日の「ご報告」

事実2014年4月26日、与沢氏はFacebookに「ご報告」と題した長文を投稿し、FASの資金が「完全にショート」したことを明かしました。報道によると、内容は次のとおりです。

  • 2013年8月期の決算以降、税金の支払いに追われた。国税局が分割納付に応じると見込み、納税資金をほとんど用意していなかった。
  • 1億円を超える滞納が残っている。
  • 取引先のクレジットカード会社が倒産し、資金繰りが悪化した。
  • 海外FXに投資した資金の9割を失った。
  • 高級車3台を売却し、都内の住宅をすべて解約。4月30日付で六本木のオフィスも退去する。

投稿の中で本人は、「お金持ちのふり」を続けることに疲れていたとも書いています。

稼いでいるように見せること自体が、事業の中心になっていた。

この告白が当時の業界に与えた衝撃は大きいものでした。「秒速で1億円」の看板を掲げていた本人が、実は税金も払えない状態だった。看板を信じて高額な商材を買った人、報酬を当てにして紹介を続けた人にとって、それは足元が崩れる知らせでした。

シンガポール、そしてドバイへ

事実2014年12月、与沢氏はシンガポールの就労ビザを取得して移住したことを公表しました。その後は個人投資家として株式投資などを行い、2016年にはドバイへ移ったと語っています。投資で資産を築き直したとして、再び注目を集めました。

本人は海外で再起しました。しかし、FASの周りで商材を買い、報酬を待ち、人生の時間を差し出した人たちの多くに、そうした再起の舞台はありませんでした。この落差こそが、ネオヒルズ史のいちばん苦い部分です。

出典